トランスの電流密度による線径の決定のポイント
トランスの基本的な設計の流れは、仕様の確認からスイッチング選定、線径の設定や損失の算出と非常に多くのプロセスを経て製造されます。
その中でも線径の決定は、トランスの性能(効率、発熱、電圧降下など)に直接影響を与えるだけでなく、
製品のサイズやコストにも関わってくるため、トランスの設計において非常に重要な要素です。
そこで本記事では、トランスの電流密度による線径の決定のポイントについて解説していきます。
巻材(マグネットワイヤ)の選定
巻線の材質としては、主に銅が用いられます。
しかしながら、一口に銅線といっても、様々な種類があります。「UEW線」「PW線」「AIW線」「リッツ線」「三層絶縁線」「平角線(エッジワイズ)」などがあります。
下記にて具体的な用途をご紹介します。
UEW線:一般的なトランス・コイルに使用されます(耐熱:130度)
PEW線:耐熱性、絶縁性、耐溶解性が求められるトランス・コイルに使用されます(耐熱155度(クラスF))
AIW線:耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性が求められるトランス・コイルに使用されます(耐熱180度(クラスH))
リッツ線:高周波のトランス・コイルに使用されます
三層絶縁線:小型化を目的とする場合に使用されます
平角線(エッジワイズ):大電流用途でのトランス・コイルに使用されます
電流密度と線径の関係
電流密度とは、導体の断面積あたりの電流量のことを指します。この電流密度と線径は反比例の関係にあり、
電流が一定の場合、線径が太くなるほど断面積が大きくなり、電流密度が小さくなります。逆に、線径が細くなるほど電流密度が大きくなります。
仮に電流密度が大きすぎる場合、巻線で発生する熱量が多くなることで焼損、絶縁材料の劣化、
トランスの運動効率の低下などの問題が発生しますので注意が必要です。
例えば、5A/mm²で設計した場合、φ1mmの電線でも特に問題はありませんが、10A/mm²で設計した場合は、
φ1mmの電線の場合だと発熱のリスクが懸念される、などのことが想定されます。
線径の決定のポイント
上述の通り、電流密度と線形は密接に関係にありますが、線径を決定するには、電力量を考慮する必要があります。
具体的には、電力量が小さくなると、電流密度を上げても問題は有りませんが、電力量が大きくなると、電流密度を下げる必要があります。
下記はあくまで当社が考える大まかな指標ですので、ご参考ください。
・小容量 5A/mm² をベースに線径を決定
・中容量 4A/mm² をベースに線径を決定
・大容量 3A/mm² をベースに線径を決定
線径を選定し、トランスを製造した後に発熱温度を測定し、線径に問題がないか確認します。
ただし、この線形の決定については、ある程度、設計者の経験則に基づくものとなりますので、お困りの際は一度お問い合わせください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。トランスの線径決定は、様々な要素を考慮する必要がある複雑なプロセスであり、線形の決定は、主に設計者の経験に基づいて決定されます。
上記のポイントを踏まえ、最適な線径を決定することで、高性能なトランスを設計することができます。電源開発・設計ソリューションを運営する当社では、豊富なトランス・コイルの設計・製造実績がございます。お困りの方はお気軽にご相談ください。
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