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トランス・コイル設計の豆知識

トランス・コイルにおけるコアとは?種類を解説!

スイッチング電源のコイルやトランスに使われるコア(鉄芯)は、磁気回路部品に使用される非常に重要なパーツです。その主な役割は、磁束(磁気エネルギー)の通り道(磁路)を作り出すことです。コアがあることで、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、再び電気エネルギーに戻すエネルギー変換・伝達を効率的に行うことができます。また、必要なインダクタンスを小型な形状で実現するためにも不可欠です。

コアの特徴

特徴①:磁路の形成

磁束が外部に漏れることなく、コアの中を通り閉じたループ(閉磁路)を形成することで、エネルギー伝達効率を高めます。

特徴②:インダクタンスの増大

コアを挿入することで、同じ巻き数でも空芯コイルに比べてインダクタンスを数十倍から数千倍に増やすことができます。これはコア材の**透磁率 (μ)**の大きさに関係します。

特徴④:磁気飽和 (Magnetic Saturation)

コア材には磁束密度(B)が増加すると透磁率が低下し、インダクタンスが低下する磁気飽和という現象があります。これは流れる電流(起磁力 H)が増えることで発生し、特に直流電流が重畳される場合に注意が必要です。磁気飽和を起こすと、トランスやコイルが正常に機能しなくなります。

特徴⑤:損失と温度上昇

コア材自体にも電力損失(渦電流損など)があり、これが温度上昇の原因となります。コア材の損失は温度と共に増加する性質があり、熱暴走につながる可能性もあります。

特徴⑥:設計の複雑性

コアは「目に見えない動作特性」によって特性が決まるため、最適な設計は容易ではなく、高度な経験が求められます。設計ミスは重大な事故につながる可能性があります。

特徴⑦:直流重畳特性

スイッチング電源用コイル/トランスでは、直流電流が流れたときのインダクタンスの低下度合いを示す直流電流重畳特性が非常に重要視されます。

コアの種類

スイッチング電源では、用途や要求特性に応じて様々な種類のコアが使用されます。

材料による分類

材料①:フェライトコア (Ferrite core)

高周波用に多く用いられます。低損失タイプや、高い透磁率を持つタイプなどがあります。

Ni-Zn系フェライト: 比抵抗(単位体積あたりの電気抵抗)が高く、直接巻き線が可能です。小型チョークコイル(バー形、ドラム形、スリーブ形)、面実装パワーインダクタ、ノイズ対策用クランプコアなどに使われます。

Mn-Zn系フェライト: くさびギャップのスインギングチョークコイルなどに使用され、比較的削りやすいです。

材料②:ダストコア (Dust core) / センダスト (Sendust)

直流重畳特性に優れるものがあります。

材料③:アモルファス/ダストチョークコイル用コア

ダイオード逆回復特性改善のための可飽和リアクトルとして使用される「アモビーズ」などがあります。

形状による分類

分類①:トロイダルコア (Toroidal core / リングコア)

理想的な形状とされ、漏れ磁束が少ないです。コモンモードコイルにも適していますが、自動巻きが難しい場合があります。

分類②:EEコア / EIコア 

小容量電源トランスに多く、安価です。電流トランス(CT)やコモンモードコイルにも使われます。

分類③:EERコア

 スイッチング電源トランスの主流で、巻き線が容易です。

分類④:PQコア

チョークコイルに適しています。

分類⑤:EPCコア

薄型化(低背化)に適した形状ですが、断面積が小さく、高インダクタンスには不向きです。

分類⑥:UUコア

CTやコモンモードコイルに適しています。

分類⑦:ドラム形コア (Drum core)

小型チョークコイル用です。

分類⑧:バーコア (Bar core)

単純な丸棒状で、Ni-Znフェライトなどで使われます。

分類⑨:スリーブコア (Sleeve core)

ドラムコアの外側に筒状コアを組み合わせた形です。

分類⑩:「日の字」コア

コモンモードコイル用で、2つのEEコアを合わせたような形状です。

分類⑪:ビーズコア (Bead core)

ケーブルを通してノイズフィルタとして使用されます。

コアを選定する際の注意点

注意点①:用途・回路方式との適合性

コアの種類は回路方式によって大きく異なり、万能なコアはありません。用途に合った磁気特性、形状、大きさのコアを選びます。

注意点②:必要なインダクタンスと透磁率

実効透磁率が高いコアほど、同じインダクタンスをより小型なコアで実現できます。ただし、透磁率と飽和特性はトレードオフの関係にあることがあり注意が必要です。

注意点③:電流容量とサイズ

流れる電流の大きさに応じて、十分な断面積を持つ巻き線(太い電線)を巻けるサイズのコアが必要です。これにより銅損や温度上昇を抑えます。小型すぎるコアは細い線しか巻けず、大電流用途には不向きです。

注意点④:磁気飽和特性

使用条件(流れる電流、特にDC重畳電流やAC磁束変化)において磁気飽和を起こさないコアを選定することが極めて重要です。直流電流重畳特性の優れたコアが望ましいです。

注意点⑤:周波数特性と損失

スイッチング周波数に応じた特性を持つコア材を選びます。高周波ではコア損失が大きくなるため、低損失のコア材が必要です。周波数を高くするとコイルやトランスを小型化できます。

注意点⑥:温度特性

コア材の磁気特性や損失は温度によって変化します。使用温度範囲で特性が維持できるか、損失による温度上昇が許容範囲内かを確認します。

注意点⑦:ボビンの入手性

専用のボビンを使って巻き線するのが一般的です。選定したコアに対応するボビンが入手可能か、事前に確認が必要です。

コアを使用する際の設定(設計・製作)における注意点

コア自体を設定するというよりは、コアを組み込んだコイルやトランスを設計・製作を行い回路内での実動作における確認が注意すべき点です。設計ミスや不適切な使用は、電源の性能低下や故障につながる可能性があります。

安全規格への準拠と絶縁設計

①:使用するコアを組み込んだトランスやコイルは、各国の安全規格に基づく絶縁性能(沿面距離、空間距離など)を満たす必要があります。電圧、汚損度、使用条件に応じて必要な距離が変わります。

②:巻き線とコアの間、および巻き線間の絶縁が不十分にならないよう注意が必要です。特に引き出し部や巻き始め/終わり部分は絶縁処理を丁寧に行います。絶縁チューブや絶縁テープ(バリアテープ、層間テープ、外装テープ)を適切に使用します。

③:完成品で絶縁抵抗測定や絶縁耐圧試験を行い、設計通りの絶縁性能が確保されているかを確認します。

磁気飽和の回避設計

回路設計(例:フォワードコンバータの磁気リセット回路)やコアの選定・設計によって、コアが磁気飽和しないようにすることが極めて重要です。

多くのコアにはギャップ(空隙)を設けることで、インダクタンスの調整や直流電流重畳による磁気飽和を防ぐことができます。ギャップの種類にはスペーサギャップとセンタギャップがあります。ギャップの周辺からは漏れ磁束が発生しやすいです。

巻き方と巻き線間結合

巻き線間の結合度が低いと漏れインダクタンスが増加し、スイッチング時のサージ電圧やノイズの原因になります。結合度を高めるために、巻き方を工夫する(例:スペース巻き、並列巻き、密着巻き)ことが重要です。低電圧出力で巻き数が少ない場合でも結合に配慮が必要です。

高周波電流による巻き線の損失(渦電流損、表皮効果)を減らすため、リッツ線などの特殊電線を使用することがあります。大電流用途では平角線が有利な場合があります。

コアとボビンの固定

巻き終わったコアは、ボビンとしっかりと固定する必要があります。テープや接着剤、ワニス含浸などが用いられます。ワニス含浸は動作中のうなり音防止にも有効です。

ノイズ対策

スイッチング電源はノイズ源であり、トランスやコイルもノイズを発生させます。漏れ磁束はノイズの原因となります。外部へのノイズ放出を防ぐため、コアを使用したノイズフィルター(コモンモードコイル、ビーズコア など)を適切に配置します。コアのギャップ周辺に電磁シールド(シールドリング)を行うことも漏れ磁束対策になります。

測定による特性確認

設計したコアを組み込んだコイルやトランスが仕様を満たしているか、インダクタンス、直流抵抗、巻数比、直流電流重畳特性、漏れインダクタンス、絶縁抵抗、絶縁耐圧、温度などを測定してかくにんします。特にスイッチング電源用としては直流電流重畳特性の測定が重要です。

コアはスイッチング電源の性能、信頼性に深く関わる部品です。その選定と使用(設計、製作)においては、上記の様々な点を総合的に考慮し、慎重に進めることが高品質な電源を実現するためには、不可欠です。

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