トランス・コイルにおける巻き線の役割
スイッチング電源において、コイルやトランスはエネルギー変換・伝達に重要な部品です。その性能や信頼性は、磁気回路に電線を巻き付ける「巻き線」によって大きく左右されます。コイルはインダクタンスを得るため、トランスは電気エネルギーと磁気エネルギーの変換・伝達のために電線を巻きます。
巻き線の方法と特徴
電線の巻き方にはいくつかの方法があり、それぞれ特徴があります。
特徴①:多層巻き
必要な巻き数を確保するため、電線を複数層に重ねて巻く巻き方です。。トランスでは、層間の絶縁を確保するために、一層巻くごとに絶縁テープを挟むこともあります。
特徴②:整列巻き
電線をボビンの巻き幅いっぱいに隙間なく並べて巻く巻き方です。巻き線の膨らみを防ぎ、電線同士のショートを避けるために重要です。特性の安定化にも寄与します。
特徴③:スペース巻き
巻き数が少ない場合、巻き線間に意図的に隙間を空けて巻く巻き方です。一次・二次間の結合を改善します。漏れインダクタンスの調整に効果があることがあります。
特徴④:並列巻き(バイファイラ巻き、トリファイラ巻きなど)
太い電線の代わりに、細い電線を複数本まとめて巻く巻き方です。大電流を扱う場合に有効で、巻きやすさを確保し、巻き高さを抑えます。通常は2〜4本程度が一般的です。
巻き線設計・製造時の重要な考慮事項と注意点
コイルやトランスの巻き線は、性能、信頼性、安全性を確保するために多くの点を考慮する必要があります。
事項①:絶縁の確保
一次側と二次側の間の絶縁は特に重要です。層間絶縁、沿面距離の確保、外装絶縁、引き出し部絶縁など、各種絶縁テープや絶縁チューブを使用します。テープは巻き幅いっぱいに隙間なく巻き、必要なターン数を巻き付けます。
事項②:電流と電線径の選定
流れる電流に応じて適切な電線径を選びます。電流が大きすぎると電力損失が増大し、温度上昇の原因となります。
事項③:周波数と表皮効果
高周波電流は電線の表面近くに集中する表皮効果を生じ、損失が増加します。リッツ線を使用すると有効ですが、端末処理が容易ではありません。
事項④:巻き方の精度
整列巻きなど、きれいに巻くことが重要です。多層巻きや並列巻きでは特に注意が必要です。
事項⑤:端末処理
巻き始めと巻き終わりの電線をボビンのピンにしっかりと固定します。複数本巻を一つのピンにつなぐとき、全ての線がしっかりと固定されていることを確認する必要があります。
事項⑥:漏れ磁束と渦電流損
漏れ磁束は渦電流損やサージ電圧、ノイズの原因となります。結合度を高める、シールドリングを設けるなどの対策が必要です。
事項⑦:磁気飽和
コアが磁気飽和するとインダクタンスが低下し、トランスやコイルの機能が損なわれます。設計段階から磁気飽和を避ける必要があります。
事項⑧:温度上昇と熱暴走
電線での銅損、コアでの鉄損などにより部品は発熱します。熱暴走を避けるため、耐熱温度や損失を考慮し、温度測定時には内部温度も考慮します。
事項⑨:コアとボビンの固定
振動によるうなり音を防ぐため、コアを粘着テープやワニス・ボンドなどで固定します。
事項⑩:ボビンの利用と自作
専用ボビンを使用するのが一般的ですが、入手できない場合は自作も可能です。
事項⑪:コスト
電線の種類や太さ、巻き線の複雑さによってコストが変わります。性能とコストのバランスを取る必要があります。
事項⑫:測定と検証
設計通りの性能が得られているか、安全性が確保されているかを確認するため、インダクタンス、直流抵抗、絶縁抵抗、絶縁耐圧、温度上昇などの測定を行います。
これらの要素を総合的に考慮し、精密な巻き線作業を行うことが、スイッチング電源のコイルやトランスの性能と信頼性を確保するために不可欠です。設計は容易ではなく、試行錯誤を繰り返しながら詳細を詰めていくのが実情です。
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