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トランス・コイル設計の豆知識

トランス・コイルにおける絶縁の重要性

スイッチング電源のトランスやコイルにおいて、絶縁(Insulation)は非常に重要な要素です。電気回路が安全かつ安定に動作するために不可欠なものです。

絶縁とは

絶縁とは、電気を通さない物質(絶縁体)によって、異なる電位を持つ部分同士を電気的に切り離し、電流が流れないようにすることを指します。スイッチング電源で特に重要となるトランスでは、一次側(入力側)と二次側(出力側)の巻き線間が電気的に接続されておらず絶縁されていることが基本的な構造であり、その役割があります。

なぜ絶縁が必要なのか

スイッチング電源において絶縁が必要な主な理由は以下の通りです。

理由①:感電防止と安全確保

スイッチング電源の一次側には商用電源など比較的高い電圧が印加されます。一方、二次側は通常、機器を動作させるための低電圧です。もし一次側と二次側が絶縁されていなければ、誤って二次側(機器の筐体など)に触れた際に感電する危険性があります。絶縁によって、高電圧側と低電圧側を完全に分離し、利用者の安全を確保します。各国の安全規格でも、電源の絶縁性能は最重要項目のひとつとされています。

理由②:機器の保護

雷サージや電源ラインからの異常な高電圧が一次側に侵入した場合、絶縁が不十分だと二次側の機器にまで伝わってしまい、機器の破損につながる可能性があります。適切な絶縁は、このような異常電圧から機器を保護します。

理由③:ノイズ対策

スイッチング電源は、その動作原理上、ノイズを発生させやすい性質があります。一次側で発生したノイズが絶縁を介さずに二次側に伝わると、接続された電子機器の誤動作や性能低下を招く可能性があります。絶縁は、ノイズが伝導する経路を遮断する役割も果たします。

理由④:回路動作の安定化

特にトランスでは、一次側と二次側が絶縁されていることで、各回路が独立して動作できます。これにより、回路設計が容易になり、安定した電力変換が可能になります。

どのような方法で絶縁するか

絶縁を確保するためには、主に以下の方法が用いられます。

方法①:物理的な距離の確保

電気的な接続がない部分同士の間に、空気や絶縁体による物理的な距離(沿面距離や空間距離)を設けます。この距離は、印加される電圧、使用環境の汚染度、絶縁材料の種類など、安全規格で定められた条件に基づいて必要な値が決められています。トランスの巻き線や引き出し線と、コア、ボビン、外部回路部品との間にも十分な距離を確保する必要があります。

方法②:絶縁材料の使用

コイルやトランスの巻き線や構造には、様々な絶縁材料が使用されます。

マグネットワイヤ

巻き線に使用される電線自体が、表面にエナメルなどの絶縁皮膜を持っています。

層間絶縁テープ

異なる巻き線層の間(特に一次側と二次側など、電位差が大きい部分)に絶縁テープを巻いて、巻き線間の絶縁を強化します。安全規格を満たすために、必要な巻き数(例:基礎絶縁相当で3ターン、強化絶縁相当で2ターン)が指定されることがあります。

バリアテープ

ボビンのピン引き出し部や巻き始め・終わり部など、巻き線が交差したり集中したりして絶縁距離が不足しがちな部分に、絶縁テープを巻いて距離を確保・補強します。

外装絶縁テープ

巻き線全体の最外層に巻き、巻き線とコアや周囲の部品との絶縁を確保します。

絶縁チューブ

巻き線の引き出し部分や、コアと接触する可能性がある部分に、耐熱性や絶縁性の高いチューブ(シリコーンワニスガラスチューブやテフロンチューブなど)を通し、絶縁を強化します。

ボビン

巻き線を行うための骨組みとなるボビン自体が絶縁材料(フェノールなど)で作られており、巻き線とコアや外部との絶縁に寄与します。

絶縁設計・製作時に考慮すべき点

コイルやトランス、そしてそれらを組み込んだ電源装置全体の絶縁設計・製作においては、以下の点を考慮し、注意を払う必要があります。

注意点①:安全規格への準拠

最も重要です。動作電圧、汚染度、使用環境、最終製品が適用される各国の安全規格(例:沿面距離、空間距離、絶縁耐圧など)を正確に把握し、それに合わせて絶縁構造を設計します。

注意点②:電圧と絶縁耐圧

回路で扱う電圧レベルに応じた絶縁耐圧を持つ絶縁材料を選択します。特に一次側と二次側の間には高い耐圧が必要です。高電圧を扱う場合は、絶縁を強化した電線(例:3層絶縁電線)の使用も検討します。

注意点③:温度特性

コア損失や巻き線の銅損によってトランスやコイルは温度上昇します。絶縁材料の絶縁性能は温度によって変化するため、使用温度範囲で必要な絶縁性能を維持できるか、耐熱性の高い材料を選定する必要があります。

注意点④:ノイズと漏れ磁束

漏れ磁束はノイズの原因となり、渦電流損による温度上昇を引き起こす可能性もあり、温度上昇による絶縁性能部分では、時折気にしておく必要があります。

注意点⑤:巻き線と引き出し部の処理

巻き始め、巻き終わり、ピンへの引き出し部は、巻き線の皮膜剥がれや線同士の接触、コアとの接触などにより絶縁不良を起こしやすい箇所です。バリアテープや絶縁チューブを適切に使用し、丁寧な処理が必要です。ボビンの溝を利用した引き出しは、コアとの距離が不足する可能性があり、注意が必要です。

注意点⑥:巻き方の均一性

巻き線が不均一になったり、巻き崩れたりすると、巻き線間の距離が設計通りにならず、絶縁距離が不足したり、漏れインダクタンスが増加したりする可能性があります。特にEIコアなど角があるボビンでは、角を直角に曲げて巻くことが重要です。並列巻きの場合は、線を交差させずに整列巻きします。

注意点⑦:部材の品質と入手性

使用する絶縁材料(テープ、チューブ、電線など)が要求される絶縁性能(耐熱性、耐圧、厚さなど)を満たしているか確認が必要です。固定: 巻き終わったコイルや、コアとボビンをテープ、接着剤、ワニス含浸などでしっかりと固定することは、動作中の振動による絶縁劣化を防ぎ、安全性を維持するためにも重要です。ワニス含浸はコアのガタつきによるうなり音防止にも有効です。

注意点⑧:測定と検証

完成したコイルやトランスが、設計で意図した絶縁性能を有しているか、絶縁抵抗測定や絶縁耐圧試験を行い、確認することが不可欠です。これらの試験はトランス単体だけでなく、スイッチング電源装置としても実施する必要があります。

絶縁に使用される部材

前述の通り、様々な絶縁材料が使用されます。

部材①:マグネットワイヤ(巻き線)

コイルやトランスの導体であり、表面に絶縁皮膜(エナメルなど)が施されています。耐熱クラス(例:UEWのE種は120℃)や皮膜の厚さ(例:2種が多い)で分類されます。高周波用には渦電流損を減らすリッツ線、高電圧用には皮膜が厚く強化された3層絶縁電線(TEX線)などがあります。大電流用には平角線が使われることがあり、銅板に比べて絶縁が容易ですが、絶縁構造には注意が必要です。

部材②:絶縁テープ

層間絶縁テープ

巻き線層間、特に一次側と二次側間の絶縁に使用され、最も重要とされる部分です。ポリエステルフィルム粘着テープなどが一般的です。基礎絶縁や強化絶縁に相当する厚みと巻き数が求められます。

バリアテープ

ボビン特定の箇所(ピン引き出し部など)での絶縁距離確保・補強に用いられます。ポリエステルフィルムと不織布などを組み合わせたテープが使われます。

外装絶縁テープ

巻き線全体を保護し、コアや周囲部品との絶縁を確保します。これも粘着テープが用いられます。

部材③:絶縁チューブ

巻き線の引き出し端子処理部など、特に高い耐熱性や絶縁性が必要な箇所に使われます。シリコーンワニスガラスチューブやテフロンチューブなどがあります。

部材④:ボビン

巻き線の骨組みとなる成形品で、フェノールなどの絶縁材料で作られています。適切な形状とサイズのものを選び、入手性を確認します。

部材⑤:ギャップ材

コアにギャップを設ける際に使用される非磁性体(スペーサギャップ)。マイラペーパー、ベーク板、ガラス、紙などがありますが、厚みの安定性や割れにくさからマイラペーパーなどが好まれます。

部材の選定・使用における注意点

注意点①:電線

流れる電流の大きさから導体断面積を決めますが、使用周波数や電圧に応じた種類(リッツ線、3層絶縁電線など)を選定します。耐熱クラスも使用温度を考慮して選びます。太い線や並列巻きは巻きにくさに影響するため、ボビンのサイズとの兼ね合いも考慮します。

注意点②:絶縁テープ

用途に応じた種類(層間、外装、バリア)と、必要な厚さ、耐熱性、絶縁耐圧を持つものを選びます。巻き始めから終わりまで、隙間ができないように全周に渡って、必要なターン数(重ね合わせ)を確保して巻き付けます。特にバリアテープは、必要な絶縁距離を確保できるよう、巻き線の仕上がり外径よりもやや大きい幅のものを選びます。

注意点③:絶縁チューブ

高温になる箇所やコアとの接触が考えられる箇所には、耐熱性に優れたものを選びます。チューブを通す長さや位置も適切に設計します。

注意点④:ボビン

コアの形状とサイズに合った専用ボビンがあれば利用しますが、なければファイバーボードなどで手作りすることもあります。ボビンの材質の耐熱性も考慮が必要です。

注意点⑤:全体構造

各絶縁部材を組み合わせた際に、要求される沿面距離、空間距離、絶縁耐圧が満たされているか、設計図上で確認し、実際に製作したもので測定して検証します。特に、巻き線がボビンから引き出される部分や、コアと巻き線の間の距離など、見落としがちな箇所にも注意が必要です。

絶縁は、単に電気的に切り離すだけでなく、安全規格の要求を満たし、電源の信頼性と性能を確保するための多岐にわたる設計・製作上の配慮が必要な要素です。目に見えない部分の設計や作業が、最終的な製品の性能・品質を大きく左右します。

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