スイッチング電源に使用されるコア材の種類と特徴
スイッチング電源に使われコア材とは、スイッチングトランスやチョークコイルに用いる磁性体材料となります。今回はスイッチング電源で主に使用されるコア材の種類とその特徴についてご紹介します。ぜひご覧ください。
主なコア材の種類
材料名 | 主な特徴 | 用途例 | |
フェライト | 高周波特性に優れ、絶縁性が高い。渦電流損が小さく高周波に向く。形状の自由度が高い。比較的安価。 | Mn-Zn系 | スイッチングトランス、インダクタ(数kHz〜1MHz) |
Ni-Zn系 | ノイズ対策用のフェライトコアや信号伝送用のトランスなどに使用(1MHz以上) | ||
アモルファス合金(非晶質合金) | 高い飽和磁束密度と低損失。比較的高周波(〜数十kHz)に適応。 | PFC用チョーク、パルストランスなど | |
ダストコア | フェライトよりも低い透磁率比較的高い飽和磁束密度直流重畳特性が良い。軟磁性粉末を樹脂で固めた構造。 | 鉄系系 | 安価だが高周波特性は劣る。ラインフィルタなど(EMI)対策用として使用。 |
センダスト系 | 直流重畳特性も良好。スイッチング電源のチョークコイルに使用。 | ||
MPP系 | 高い透磁率を持つが、高価。高周波回路で小型化が必要な場合に使用。 | ||
珪素鋼板(シリコンスチール) | 低周波向け。トランス用途に古くから使用。スイッチング電源には使われない。 | 商用トランス(50/60Hz) | |
ナノ結晶合金(ナノクリスタル) | アモルファスよりも高透磁率・低損失。磁気特性が優れる。 | 高効率電源、高周波リアクトル(PFC用) |
上記の表は、現時点での話であり、一般的に言われている事をまとめています。基本的には、スイッチングトランス、スイッチングインダクタ、ラインフィルターなどは、フェライト系、PFCコイルは、フェライトまたは、アモルファス系が使用されることが多いです。
また、材料工学分野においては、新素材等の研究も進んでいる事から、用途や周波数に応じて選ばれる特定の一種類ではなく、実用的な材料および、用途をまとめていますが、数年先には変わる可能性もある事から、つねにアンテナを広げ情報収集を行う必要があります。
フェライト系コア材について
Mn-Zn系フェライト(マンガン・亜鉛系)
特徴:高透磁率、低損失、比較的高い飽和磁束密度
周波数帯:数kHz〜数百kHz(主にスイッチング電源用)
用途:トランス、インダクタ、PFCチョーク、ノイズフィルタ
材料コード | 特性 | メーカー例 |
---|---|---|
PC40 | 標準的Mn-Zn材。20〜200kHz向け。 | TDK |
PC44/PC95 | PC40より高周波対応。300kHzまで可。 | TDK |
N87 | 低損失、安定特性で定番。100〜500kHz | EPCOS(TDK) |
3C90/3C94 | 高周波向けMn-Zn | Ferroxcube(旧Philips) |
Ni-Zn系フェライト(ニッケル・亜鉛系)
特徴:高抵抗で、非常に高い周波数特性に優れるが透磁率は比較的低い
周波数帯:数十MHz〜GHz
用途:EMI対策、RFノイズ抑制、アンテナコア、同軸ケーブルフィルタなど
材料コード | 特性 | メーカー例 |
---|---|---|
K5B | 高周波用Ni-Zn | TDK |
J 系 | 数百MHz〜1GHz帯に対応 | Fair-Rite |
43材 / 61材 | 汎用EMI・RF用 | Fair-Rite |
Mn-Zn vs Ni-Zn:主な違い
特性 | Mn-Zn | Ni-Zn |
---|---|---|
透磁率 | 高い(>1000〜10,000以上) | 低い(<500) |
電気抵抗 | 低め | 高い(渦電流抑制に有利) |
周波数特性 | 〜数百kHz(電力変換向け) | MHz〜GHz(EMI向け) |
主な用途 | トランス・電源回路 | EMIフィルタ・ノイズ抑制 |
アモルファス系コア材について
アモルファスコアの主な種類と特徴
分類 | 材料系 | 代表的な構成 | 特徴 | 用途例 |
---|---|---|---|---|
Fe系アモルファス | Fe-Si-B、Fe-Ni-Si-B | Fe₇₈Si₉B₁₃ など | 高飽和磁束密度(~1.56T)、比較的安価、低鉄損 | トランス、チョーク、EMI対策 |
Co系アモルファス | Co-Fe-Si-B | Co₆₈Fe₄Si₁₅B₁₃ など | 優れた温度安定性、磁気センサ向け、低損失 | 高精度センサ、インバータ回路 |
Fe-Niアモルファス | Fe₇₀Ni₁₀Si₁₀B₁₀ など | Feの磁性とNiの柔軟性を併せ持つ | 柔らか磁性、スイッチング電源に適応 | 高周波トランス、小型電源 |
アモルファス+結晶複合材 | アモルファスと結晶粒混在 | 例:Finemetの前段階材 | ナノクリスタルコアに近い性質 | 一部高性能アモルファス |
主な用途別に見るアモルファスコアの採用例
主な用途 | 推奨コア種 | 備考 |
---|---|---|
PFCチョーク | Fe系アモルファス | 高電流・高効率に対応 |
LLC共振トランス | Fe-Niアモルファス | フェライトより損失が少ないことも |
高精度電流センサ | Co系アモルファス | 非直線性が少ない |
ノイズ抑制・EMIフィルタ | Fe系(トロイダル) | 巻線しやすく、漏れ磁束が少ない |
アモルファス vs 他材
特性 | アモルファス | フェライト | ナノクリスタル |
---|---|---|---|
飽和磁束密度(Bs) | 高 (~1.56T) | 低 (~0.4T) | 中 (~1.2T) |
透磁率(μ) | 中〜高 | 中〜高 | 高(制御可) |
鉄損 | 中(高周波ではやや劣る) | 低(高周波向け) | 最低レベル |
周波数対応 | 数十kHz〜200kHz程度 | 数百kHz〜MHz | 〜1MHz以上 |
コスト | 中(やや高) | 安 | 高 |
ダスト系コア材について
ダスト系コアの主な種類と特徴
名称 | 主成分 | 特徴 | 用途例 |
---|---|---|---|
MPPコア (Molybdenum Permalloy Powder) | Ni-Fe-Mo合金 | 非常に低損失、高い温度安定性、コスト高 | 精密インダクタ、通信回路、共振回路 |
High Fluxコア | Ni-Fe(~50%Ni) | 高飽和磁束密度(~1.5T)、直流重畳に強い | PFC、電流制限インダクタ |
Sendustコア (Fe-Si-Al) | Fe-Si-Al合金 | 安価で直流重畳にも強い、やや高損失 | 一般的なスイッチングチョークコイル |
鉄粉コア(Iron Powder) | 純鉄系 | 最も安価、低周波向け、高損失 | トランス、フィルタ、低周波用途 |
Fe-Si系コア (XFluxなど) | Fe-Si系 | High Fluxと似た特性、低コスト | 太陽光・車載・高電力PFC用途 |
主な用途別に見る推奨ダストコアタイプの採用例
主な用途 | 推奨コア |
---|---|
LLC共振・精密用途 | MPPコア |
PFCチョーク(高電流) | High Flux / Fe-Si系(XFlux) |
ノイズ抑制インダクタ | Sendust / MPP |
低周波電源トランス | 鉄粉コア |
自動車・太陽光用途 | Fe-Si系、High Flux |
ダストコアのポイント
- 直流重畳特性:大電流用途では重要
- 飽和磁束密度:トランスのコアサイズに影響
- コア損失:高周波動作では特に重要
- 温度安定性:車載・産業用途で要検討
- コスト・サイズ・供給性:量産設計では現実的な妥協も必要
ナノクリスタル系コア材について
ナノクリスタル系コアの主な種類と特徴
ナノクリスタル系コアは、他の磁性体素材とは違い高度な材料技術・プロセス制御を要するため、 メーカー独自の磁性体材料開発が中心です。そのため、他社製品と完全な互換性があるとは限らず、選定時は各社の特性の確認や試験データの確認が重要となります。
ここでは、主なメーカーとその材料について纏めます。
名称(商品名) | 材料系 | 主な成分 | 特徴 | 代表用途 |
---|---|---|---|---|
Finemet®(日立金属) | Fe-Cu-Nb-Si-B | Fe₇₃.₅Si₁₃.₅B₉Nb₃Cu₁ | 高透磁率・低損失・良好な温度特性 | トランス、電流センサ、共振回路 |
Nanoperm®(Magnetec) | Fe-Zr-BまたはFe-Cu-Nb-B | Fe基+Zr系 | 飽和磁束密度高め、低損失 | PFCチョーク、LLCトランス |
VITROPERM®(VAC) | Fe-Cu-Nb-Si-B | Finemetに近い性質 | 豊富なラインナップ、EMC用途にも | EMI対策、コモンモードコイル |
Hitperm®(日立金属) | Fe-Co-Nb-B | 高Bs(~1.6T)、やや高損失 | 高電流対応用途 | モータ周辺、車載電源 |
Atnanose®(AT&M 中国) | Fe-Cu-Nb-Si-B | Finemet互換材料 | コスト重視 | 汎用 |
特性比較(代表格)
材料名 | 飽和磁束密度 (Bs) | 透磁率(μ) | 鉄損 | 周波数帯域 | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|
Finemet® | ~1.2 T | 10,000〜100,000 | 低 | 〜1MHz | 高周波対応、バランスが良い |
Nanoperm® | ~1.3 T | 30,000〜100,000 | 非常に低い | 〜500kHz | 高電力用途にも強い |
VITROPERM® 500F | ~1.2 T | ~60,000 | 非常に低い | 〜500kHz | EMI・電力兼用 |
Hitperm® | ~1.6 T | 中程度 | やや高 | 〜200kHz | 高電流トランス向け |
主な用途別に見る推奨ダストコアタイプの採用例
用途 | 推奨ナノ結晶コア |
---|---|
高周波LLC共振トランス | Finemet®, Nanoperm® |
PFCチョーク(高電流・低損失) | Nanoperm®, VITROPERM® |
EMIノイズフィルタ(コモンモード) | VITROPERM®, Finemet® |
電流センサ(高精度) | Finemet®, Co系ナノクリスタル |
車載・モータ制御周辺 | Hitperm®, Nanoperm® |
ナノクリスタル vs 他材料 比較
特性 | Bs(飽和磁束密度) | μ(透磁率) | 鉄損(高周波) | コスト | 温度特性 |
---|---|---|---|---|---|
フェライト | 0.3〜0.5 T | 中〜高 | 低 | 安 | 普通 |
アモルファス | ~1.56 T | 中〜高 | 中〜低 | 中 | 良 |
ナノクリスタル | ~1.2〜1.6 T | 高(可変) | 最低 | 高め | 優秀 |
スイッチング電源等に使用されるコア材について
回路方式(スイッチング周波数)別に、コア材料について纏めます。基本的には、フェライトが一般的であり、発振周波数をある一定以上に上げる事で他の材料の選択となります。
回路方式(トポロジー) | 動作周波数の目安 | 主な用途 | 適したコア材料 |
RCC方式フライバック | 20kHz〜300kHz | ACアダプタ小電力電源 | フェライト(Mn-Zn)低損失タイプ |
フォワード | 50kHz〜250kHz | 中小電力電源 | フェライト(Mn-Zn) アモルファス(一部) |
プッシュプル | 50kHz〜500kHz | 組込みDC-DC車載用DC-DC | フェライト アモルファス(高周波時) |
ハーフブリッジ | 50kHz〜500kHz | 中〜高電力 | フェライト ナノクリスタル(損失最小化時) |
フルブリッジ | 100kHz〜1MHz | 高電力DC-DCUPS等 | フェライト ナノクリスタル |
LLC共振 | 100kHz〜1MHz超 | 高効率サーバ電源EV充電器など | 高周波フェライト(Ni-Zn) ナノクリスタル(リーケージ設計がしやすい) |
ZVS/ZCS方式 | 250kHz〜1MHz超 | GaN系電源、超小型設計 | フェライ 高周波フェライト(Ni-Zn)一部パウダードコア |
次に、よく使われるコア材料の比較です。
材料類 | Bs(T) | 鉄損(相対) | 特徴 | 価格 | 推奨周波数帯と主な用途 |
---|---|---|---|---|---|
Mn-Znフェライト | ~0.5 | 低 | 標準的。損失低い。 | ◎ | 〜500kHz程度 / スイッチングトランス高効率電源(LLC等)高周波Mn-Zn |
Ni-Znフェライト | ~0.3 | 低 | 高抵抗・高周波特性 | △ | 数百kHz〜数MHz / 高周波ノイズ除去(EMI対策(ケーブルクランプ) |
アモルファス | ~1.56 | 中 | 高Bs、広帯域、低損失 | △ | 〜100kHz(用途により200kHz程度も) |
ナノクリスタル | ~1.2 | 低 | 超高μ、高周波特性良好 | ×(高価) | 〜数百kHz〜1MHz |
パウダードコア(MPP等) | ~1.0 | 中 | DCバイアス特性優れる | △ | フィルタやチョーク用途で数十kHz〜 |
トランス材料選定のポイント
主に次の項目により、コア材を選択する事になります。
項 目 | 詳 細 |
---|---|
1. 動作周波数 | 高周波(100kHz以上)になるほどフェライト(特にMn-Zn系)やNi-Zn系、ナノクリスタルが有利。 周波数が高いほどコア損失が増えるため、低損失材料の選定が重要。 |
2. 飽和磁束密度(Bs) | トランスの電力密度に直結。 アモルファス(1.56T)>ナノクリスタル(1.2〜1.3T)>フェライト(0.4〜0.5T) 高電力用途ではBsが高い材料を選ぶとトランスサイズを小さくできる。 |
3. 透磁率(μ) | 高いほど小型化に有利。ただし、過度に高いと共振・ノイズの原因になる場合もある。 ナノクリスタルやMn-Znフェライトは透磁率が高い。 |
4. コア損失(鉄損) | 高効率設計に最重要。特にヒステリシス損失・渦電流損失を抑える必要がある。 フェライトやナノクリスタルは高周波でも損失が小さい。 |
5. 温度特性 | 温度上昇による磁気特性の変化が小さい材料を選ぶ。ナノクリスタル・フェライトは比較的安定。 設計時は最大動作温度も考慮する。 |
6. リークインダクタンス制御 | LLCや共振回路ではリーケージインダクタンスをあえて活用する設計もあるため、材料だけでなくコア形状の選定も重要。 |
7. 絶縁性・安全規格対応 | UL/IEC規格で要求される絶縁距離や耐電圧を満たせる構造にする必要あり。 コア材選定と同時に巻線構造・ボビン設計も含めて考慮する。 |
8. 入手性・価格・サイズ制限 | 高性能材料(ナノクリスタルなど)は高価で、サイズや形状に制限がある。量産性・コスト制約を加味した最適化が必要。 |
項目順に関しては、各々のアプリケーションによって、重要項目が変化します。研究開発のように、No.1を目指すのであれば、特性重視で『7. 絶縁性・安全規格対応』や『8. 入手性・価格・サイズ制限』を無視して、特性に全振りして設計を行います。
また、通常の製品設計においては、逆に『7. 絶縁性・安全規格対応』や『8. 入手性・価格・サイズ制限』が重要視されます。このように、『何を目的』にするかで、選定ポイントの優先順位が変化します。
まとめ
今回はスイッチング電源に使用される主なコア材の種類とその特徴についてご紹介しました。電源開発・設計ソリューションを運営するペック株式会社では、最適なコア材を選定し、お客様のご要望に合わせたトランス・コイルの設計・製造が可能です。
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