安全規格に適合させるスイッチング電源開発・設計のポイント
スイッチング電源は、現代の様々な電子機器に不可欠なコンポーネントであり、その安全性は製品全体の信頼性を左右する重要な要素です。開発・設計においては、関連する安全規格を深く理解し、適合させることが必須となります。本稿では、主要な安全規格の概要と、それらをクリアするための具体的な項目について解説します。
スイッチング電源における安全規格
以下に、スイッチング電源に関連する主要な安全規格の概要を示します。
IEC 62368-1
オーディオ・ビデオ、情報技術および通信技術機器の安全に関する国際規格です。エネルギーベースの安全工学の原則に基づき、機器がもたらす可能性のあるエネルギー源を特定し、それに対する保護策を講じることを要求しています。より新しい規格であり、IEC 60950-1およびIEC 60065(オーディオ・ビデオ機器の安全規格)を統合するものです。
PSE (電気用品安全法)
日本国内で販売される電気用品の安全確保を目的とした日本の法律です。スイッチング電源は「特定電気用品」または「特定電気用品以外の電気用品」に該当し、それぞれ適合すべき技術基準や手続きが定められています。菱形PSEマーク(特定電気用品)や丸形PSEマーク(特定電気用品以外)の表示が義務付けられています。
EN 62368-1
欧州電気標準化委員会 (CENELEC) が発行する、オーディオ・ビデオ、情報技術および通信技術機器の安全に関する欧州の規格です。IEC 62368-1をベースとしており、EN 60950-1およびEN 60065を置き換えるものです。
UL 62368-1
Underwriters Laboratories (UL) が発行する、オーディオ・ビデオ、情報技術および通信技術機器の安全に関するアメリカ合衆国の規格です。IEC 62368-1をベースとしており、UL 60950-1およびUL 60065を置き換えるものです。
安全規格をクリアするための項目
スイッチング電源が上記の安全規格をクリアするためには、設計・開発段階で以下の項目を十分に考慮する必要があります。
絶縁性
感電を防ぐため、一次側回路と二次側回路間、入力端子と筐体間など、危険な電圧が存在する箇所間の絶縁が適切に確保されている必要があります。絶縁距離(空間距離、沿面距離)の確保、絶縁トランスやフォトカプラなどの絶縁部品の適切な選定と配置が重要です。耐電圧試験や絶縁抵抗試験によって評価されます。
接地
意図しない電圧が筐体などに現れた場合に、安全に電流を大地に逃がすための接地設計が重要です。保護接地端子の設置、適切な接地線の接続などが求められます。接地抵抗値の基準も規格によって定められています。
材料
電源装置に使用される材料は、電気的特性だけでなく、燃焼性、耐熱性、絶縁性などの安全性に関わる特性も考慮して選定する必要があります。難燃性規格(UL94など)に適合した材料の使用が求められる場合があります。
構造
機械的な安全性も重要です。可動部の保護、部品の確実な固定、鋭利なエッジの排除など、通常の使用やメンテナンス時に危険が生じないような構造設計が必要です。また、不適切なアクセスを防ぐための構造も考慮されます。
温度
通常動作時および異常動作時において、部品や筐体の温度が安全な範囲内に収まるように設計する必要があります。適切な放熱設計、部品の温度定格の考慮、周囲温度条件の設定などが重要です。温度上昇試験によって評価されます。
異常試験
短絡、過負荷、部品故障などの異常状態を模擬し、電源装置が発煙や発火に至らないことを確認します。保護回路の適切な動作や、難燃性材料の使用が重要となります。
表示
製品には、定格電圧、定格電流、製造者、安全に関する警告表示など、規格で定められた適切な表示を行う必要があります。表示内容だけでなく、耐久性や視認性も評価の対象となります。PSEマークなど、法規制で義務付けられた表示も適切に行う必要があります。
スイッチング電源の開発・設計においては、これらの安全規格と項目を遵守することで、安全で信頼性の高い製品を実現することができます。開発の初期段階から安全性を考慮した設計を行い、適切な試験と認証取得を行うことが、市場での成功に繋がる重要な要素となります。
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いかがでしたでしょうか。今回は、安全規格に適合させるスイッチング電源開発・設計のポイントをご紹介しました。電源開発・設計ソリューションを運営するペックでは、小ロットからカスタム電源の開発・設計を承っております。さらには、開発・設計のみならず、製造・評価まで一貫対応しており、これまで幅広いお客様のご要望を実現してまいりました。カスタム電源開発・設計に関するご依頼がございましたら、お気軽にご相談ください。
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