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電源設計の豆知識

【スイッチング電源の設計手順】安全性と品質を保証する実装、評価、最適化

スイッチング電源の安全性と信頼性を確保するためには、保護機能の実装が不可欠です。また、設計した回路が理論通りに機能するかを確認し、さらに性能を向上させるためには、回路図作成、シミュレーション、プリント基板(PCB)設計、そして実機での試作・評価といった一連のプロセスが欠かせません。

本記事では、スイッチング電源の安全性と品質を保証するための実装、評価についてご紹介いたします。

保護機能の実装

・過電流保護 (シャント抵抗、電流検出ICなど)

・過電圧保護 (ツェナーダイオード、OVP ICなど)

・過熱保護 (サーミスタ、温度検出ICなど)

・短絡保護 (電流制限回路、ヒューズなど)

・突入電流防止回路 (サーミスタ、突入防止抵抗&半導体スイッチなど)

・静電気防止 (パワーツェナーダイオード、バリスタなど)

・雷サージ/入力インパルスノイズ保護 (バリスタ、アレスタなど)

保護機能の実装の重要性

保護機能の実装は、スイッチング電源が安全かつ安定に動作し、接続された負荷機器を予期せぬ事故から守るための不可欠な要素です。これらの保護機能が適切に実装されていることで、製品の信頼性が向上し、長期的な安全性が確保されます。そして、コスト削減のために保護機能を省略したり、不十分な設計にしたりすることは、結果的に大きな損失につながる可能性があるため、決して軽視すべきではありません。

主な保護機能とその目的

保護機能内容・目的
過電流保護 (OCP)負荷短絡や突入電流時に電流を制限・停止
過電圧保護 (OVP)フィードバック異常や外乱で出力が異常上昇した際に遮断
低電圧保護 (UVP)入力電圧が低すぎると動作保証できないため動作停止
過熱保護 (OTP)部品温度が定格を超えた場合に停止または制限動作
ソフトスタート電源立ち上がり時の突入電流や出力オーバーシュートを防止
短絡保護 (SCP)出力端が直接短絡された際に瞬時にシャットダウン

設計時の注意点

・検出閾値の設定精度(マージンを持たせすぎると保護が働かず、厳密すぎると誤動作)

・保護後の動作:自動復帰(Auto-restart) / ラッチ停止(Latch-off)か、用途に応じて使い分け。

・誤動作防止設計:ノイズによる誤検出防止のため、フィルタや遅延回路の導入が必要なことも。

保護機能は「最後の砦」ではなく、設計段階から組み込むべき必須安全機能です。「壊れたら止まる」ではなく、「壊れる前に止める」ことで、製品としての完成度と信頼性を飛躍的に高めます。

回路図作成とシミュレーション

・選定した部品と設計に基づいて、詳細な回路図を作成します。

・回路シミュレーションツール (例: LTSpice, PSIM, PSpice) を使用して、回路の動作を確認します。

・定常状態解析、過渡応答解析、効率解析、熱解析、EMI解析などを行います。

・シミュレーション結果に基づいて、部品の定数や回路構成を調整します。

※ICメーカーによっては、回路シミュレータ用のDATAがホームページ上にアップされているので、それらを使用して動作確認等ができます。絶縁タイプの回路では、トランスのパラメーターの設定等で波形等変化するので、シミュレータに精通された方が居てるのであれば、事前にシミュレータでの確認は、良いと思いますが、回路シミュレーションを無理に行う必要は、ありません。回路シミュレーションを行う事で、単純な回路接続ミスなどを事前に防ぐ事などのメリットはありますが、回路シミュレーションなしでも実動作検討にて十分に特性は、取れます。

プリント基板 (PCB) 設計

・部品配置と配線レイアウトを最適化します。

・大電流ループの面積を最小化します。

・信号ラインとパワーラインを分離します。

・グラウンドプレーンを適切に設計します。

・放熱設計を考慮した部品配置とビア配置を行います。※1

・安全規格に基づいた沿面距離と空間距離を確保します。

・スイッチングノードの面積を最小化し、シールドを検討します。(よほどの事がない限り、シールドは考えない。)

※1:容量の大きな電源ユニットにおいては、基板設計前に放熱構造を含む構造設計が必要で10項と11項の間で行います。 

理由としては、自然空冷や強制空冷などで発熱部品配置を分散配置するか、固めての配置にするかなどで、発熱部品などは基板上での配置が限られてきます。また、容量の小さい電源ユニットにおいて、基板設計を行いながら放熱部品において放熱器や放熱フィンを想定しながら基板設計を行い、あとで放熱フィンの設計に当たったりします。基本的に基板設計を行うときは、平面での作業となりますが、放熱器や安全規格に基づいた部品同士の空間距離なども考慮しないといけないので、立体的に考える必要があります。

プリント基板(PCB)設計の重要性

PCB設計は、スイッチング電源の単なる配線図ではなく、その性能、信頼性、安全性、そしてEMI/EMC特性を決定づける重要な設計要素 です。 回路設計者が意図した性能を最大限に引き出すためには、電気的特性、熱特性、EMC特性、安全性、製造性など、多岐にわたる知識と経験に基づいた、慎重かつ綿密なPCB設計が不可欠です。

PCB設計が重要な理由

1.スイッチング電源の“動作品質”を決める

・高速で大電流が流れるため、配線1本の取り回しが電圧リップルやスパイクに直結。

・設計次第で発振・ノイズ・応答不良が発生しうる。

2.電源GNDと制御GNDを分離する

・電力系(パワーGND)と制御系(信号GND)を一体にすると、ノイズがフィードバックや保護回路に回り込む。

・制御回路の基準点がぶれると、誤動作や不安定な出力になる。

対策:パワーGNDと信号GNDを物理的に分離し、1点でスター接続させる。

3.熱設計(放熱)に直結

・発熱部品の熱がこもると、寿命・効率が大幅に低下する。

・PCB上の銅箔面積・サーマルビア・多層構造などにより、効果的に放熱できるかが決まる。

・ヒートシンクの取り付けスペースの確保、サーマルビアの配置、部品配置の工夫などにより、熱抵抗を低減し、部品の温度上昇を抑制します。適切な熱管理は、部品の寿命を延ばし、電源の信頼性を高めます。

・MOSFETやダイオード、トランスは発熱が大きく、放熱対策が甘いと寿命短縮や破損に直結

対策:銅箔面積を広く取る、サーマルビアを設けて多層基板で熱拡散、放熱パッドを部品裏面に配置。

4.EMI/EMC(ノイズ)性能を左右する

・スイッチング電源はノイズ源。PCB設計が悪いと、高周波ノイズが外部へ放射されやすくなる。

・グランドループ・浮遊容量・配線のループ面積などを適切に設計しなければ、EMC規格に適合できない。

・PCBレイアウトは、スイッチングノイズの発生と伝搬に大きな影響を与えます

・ノイズ源の極小化:スイッチングループをできるだけ小さくし、高速な電流変化を伴う配線を短くすることで、

放射ノイズを低減します

・シールド効果の向上:グランドプレーンの活用やシールド層の配置などにより、不要な電磁波の放射を抑制します。

・フィルタの配置:入力フィルタや出力フィルタなどのEMI対策部品を、ノイズ源に近い適切な位置に配置することが重要です。

・特にスイッチングノード周辺(MOSFET ↔ ダイオード ↔ インダクタ ↔ コンデンサ)の電流ループ面積を最小限にする。

・大きなループは、スイッチングノイズを放射しやすく、EMI悪化・誤動作の原因になる。

対策:部品をできるだけ近接配置し、銅箔を広く・短く。電流経路を可視化してから配線。

5.保護機能・フィードバック精度にも影響

・センスライン(フィードバック)をノイズ源の近くに配線すると誤動作や過電圧を招く。

・電流検出抵抗のレイアウトによって、OCP(過電流保護)の精度も変わる。

対策:センスラインは差動配線し、パワーラインから遠ざけ、GNDと対で配線する。

6.製造性とメンテナンス性

・テストポイントやヒートシンクの取付け、実装密度、製造歩留まりなどにも影響。

・再設計が発生しやすいのもPCBなので、初期から考慮が必要。

・部品配置の最適化やスルーホール/表面実装部品の適切な配置は、実装不良を減らし、製造性を向上させます。

・部品にかかる機械的なストレスを軽減するような設計や、振動対策なども信頼性向上に繋がります。

7.サイズの制約

・限られたスペースに効率的に部品を配置し、小型化を実現するためには、高密度なPCB設計技術が必要です。

スイッチング電源PCB設計のポイント

項目解説・対策例
GNDの引き回しパワーGNDと信号GNDを分離、スターGND構成、GNDループ最小化
スイッチングノード配線を最短・最小ループで引き、広がりを抑える
入力/出力バイパス大電流ラインにパスコンを最短距離で配置
サーマル設計銅箔厚の選定、サーマルビア、放熱パッドを適切に配置
フィードバックラインスイッチングノイズ源から遠ざけ、GNDと対でルーティング
層構成電源層/グランド層を広く取り、信号線をその間に通す(ノイズ抑制+低インピーダンス)

試作と評価

・設計したPCBに基づいてプロトタイプを作製します。※1

・実波形測定(ドレイン電圧、出力ノイズ、誤差アンプ応答)※2

・効率 / 部品発熱(熱電対測定/赤外線カメラなど)※3

・安定性(負荷応答・ライン応答試験)※4

・各種電気的特性の測定 (出力電圧精度、リップル、効率、過渡応答など)

・保護機能の動作確認

・温度特性の評価 ※5

・EMI/EMC試験 ※6

・安全規格に基づいた試験

※1:基板試作においては、実装時の部品同士の当たりや隙間についても確認が必要です。初期試作からフロー / リフローハンダにて製作する場合は、ハンダブリッジ箇所や未ハンダ箇所、トーテンポール現象などを確認し記録を残して、2次試作前の基板修正(改版)時に、この辺りの対策も実施します。

※2:動作波形においては、経験がものを言うので先輩方に確認頂き、良い波形と悪い波形のそれぞれの意味を含めて理解する必要があります。異常発振などは、簡単に見分けが付きますが、アプリケーションによっては、細かなジッターなどは、気付かず実機での検証時に問題になる事があります。
アプリケーション毎に、電源特性(仕様)のどの部分が重要かが、変わってきますので、これらも経験が重要になります。

※3:部品発熱においては、発熱する部品の確認は、当たり前ですが、電解コンデンサも注意する必要があります。電源ユニットにおいて寿命部品の代表格が、電解コンデンサであり、電解コンデンサの温度により製品寿命が変化するため、煽り熱など受けていないかを含め確認を行います。余談ですが、他の寿命が関係する部品として、フォトカプラが挙げられます。フォトカプラは、ダイオード側に流す電流値により定命が変化するので電流値の確認が必要となります。

※4:応答性に関しては、位相補償回路との兼ね合いがあるため、その辺りを中心に検討を行いますが、過渡応答検討を行ったあと、全入出力条件(環境温度も変化させ)において異常発振やジッターなどの確認が必要となります。

※5:動作温度範囲が広い製品においては、特に注意する必要があります。低温時のコールドスタートからの動作確認及び高温時でのエージング動作からの動作確認が必要と考えます。

※6:雑音端子電圧測定や不要複写測定においては、対策が難しくなる場合もある事から、実波形測定時に経験者と共に、スイッチング波形を確認してターンオフスピードなどの調整や場合によっては、トランスの構造からの対策、2次側ダイオードの足にフェライトビーズを入れるなどの確認/対応が重要になります。

試作と評価の重要性

試作と評価は、スイッチング電源の設計において、 理論と現実のギャップを埋め、設計の妥当性を検証し、製品の品質、信頼性、安全性を確保するための不可欠なプロセスです。 これらの工程を丁寧に行うことで、市場で競争力のある、高品質なスイッチング電源を開発することが可能になります。机上検討やシミュレーションだけに頼らず、必ず実際のハードウェアを用いた検証を行うことが重要です。

評価でチェックすべき項目(代表例)

カテゴリ評価内容
電気特性入出力特性、過渡応答、リップル、効率、保護機能、突入電流など
熱特性部品ごとの温度分布、放熱効果、連続運転での昇温
ノイズ特性EMI試験(伝導/放射)、スイッチングノイズ波形
信頼性長時間試験(連続運転/温度サイクル)、部品劣化、エージング
機能検証保護動作の確認、電源ON/OFFシーケンス、立ち上がり波形

設計の修正と最適化

・評価結果に基づいて、回路、部品、PCBレイアウトなどを修正し、性能を最適化します。

ドキュメント作成

・仕様書

・回路図

・部品表 (BOM)

・テストレポート (評価レポート)

・量産用図 (組立図含む)

これらが、スイッチング電源設計の基本的なステップとなります。

但し、試作においては、1,2回で上手くいかな場合もあります。12.項の試作と評価を行い、13.項の設計の修正と最適化 (回路変更/定数変更)、11.項のプリント基板 (PCB) 設計(ここでは、基板修正と言う)そして、12.項と続き、このループを数回繰り返す案件もあるので、1次試作での確認は、非常に重要なものになります。

スイッチング電源設計において理論検討、部品選定、シミュレーションなどと、実際に回路を組み上げて行う実検証は、車の両輪のようにどちらも欠かすことのできない、極めて重要なプロセスです。

机上での回路設計の重要性

・基本的な動作原理の確立: どのような回路方式を採用し、どのような部品を使用すれば、要求される機能や性能を実現できるのか、理論に基づいて検討します。

・部品の初期選定と定数決定: データシートや計算に基づいて、主要な部品の型番や定数を初期的に決定します。これにより、部品の特性や制約を考慮した設計が可能になります。

・シミュレーションによる動作予測: 回路シミュレータ(LTSpice, PSIMなど)を用いて、設計した回路の動作を事前に検証します。これにより、定常状態の動作だけでなく、過渡応答、効率、ノイズ特性などを予測し、問題点を早期に発見できます。

・設計の最適化の検討: シミュレーション結果を基に、部品定数の調整や回路構成の変更などを検討し、性能の向上やコスト削減を目指します。

・リスクの早期発見: シミュレーションによって、回路の潜在的な問題点(不安定な動作、過大なストレスがかかる部品など)を早期に発見し、対策を講じることができます。

実検証の重要性

・現実の挙動の確認: シミュレーションは理想的な条件下での予測であり、実際の部品のばらつき、寄生インダクタンスや容量、配線の影響などは考慮しきれません。実検証を行うことで、実際の回路がどのように動作するのかを直接的に確認できます。

・部品の選定と実装の妥当性の確認: 机上で選定した部品が、実際の回路で期待通りの性能を発揮するか、実装方法に問題がないかなどを検証します。部品の温度上昇、ノイズの発生状況、機械的な干渉などを実際に確認することで、設計の課題を早期に発見できます。

・予期せぬ問題の発見: シミュレーションでは予測できなかった、現実の回路特有の問題点(ノイズの回り込み、制御ICの誤動作、部品の異常発振など)を発見できます。

・性能目標の達成度の確認: 机上検討やシミュレーションで予測した性能(出力電圧、出力電流、効率、リップルノイズなど)が、実際に試作した回路で達成できているかを測定・評価します。

・保護機能の動作確認: 過電流保護、過電圧保護、過熱保護などの保護機能が、意図した通りに動作するか、誤動作しないかなどを実際に検証します。

・EMC特性の評価: 実際にノイズを測定し、EMC規格への適合性を確認します。シミュレーションだけでは正確な評価が難しいEMC特性は、実検証が不可欠です。

両者の関係性

机上での回路設計は、設計の方向性を定め、初期的な性能を予測し、リスクを低減するための基礎となります。

一方、実検証は、机上設計の妥当性を確認し、現実世界での問題を洗い出し、最終的な製品の品質と信頼性を確保するための重要なステップです。理想的な設計プロセスでは、机上設計と実検証を相互に繰り返しながら進めます。机上設計で得られた知見を基に試作を行い、実検証で明らかになった課題を机上設計にフィードバックして修正・改善を加える、というサイクルを回すことで、より完成度の高いスイッチング電源を開発することができます。結論として、机上での回路設計と実検証は、どちらが欠けても高品質で信頼性の高いスイッチング電源を開発することは困難です。 理論的な検討と現実的な検証の両方をバランス良く行うことが、成功への鍵となります。

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今回はスイッチング電源の保護機能の実装、評価についてご紹介しました。電源開発・設計ソリューションを運営するペックでは、小ロットからカスタム電源の開発・設計を承っております。さらには、開発・設計のみならず、製造・評価まで一貫対応しており、これまで幅広いお客様のご要望を実現してまいりました。カスタム電源開発・設計に関するご依頼がございましたら、お気軽にご相談ください。

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