【スイッチング電源の設計手順】要求仕様の確認から回路方式選定
スイッチング電源の設計手順は、仕様に合わせて電源回路方式の選定、主要部品の最適化、保護回路の設定と段階的に進める必要があります。仕様に応じた回路選定を間違えると、言われている効率まで上がらないであったり、安定性が悪いなど様々な問題が発生します。
主要部品の最適化においても同様に必要以上のスイッチング素子を使用する事でON-OFF時のスイッチングスピードに問題が生じ、効率が上がらないであったり、予定の直接材料費内に収まらないなど様々な問題が出ます。
また、保護回路においては、電源回路の異常や負荷側(機器側)の不具合、外部からの雷サージ電圧のようなノイズを受けたとき電源ユニットが焼けるなどはあってはならないため、それぞれ想定される問題に対する保護回路等を検証するなど対応を行う必要があります。
そこで今回はスイッチング電源の設計手順について解説いたします。
スイッチング電源設計の基本ステップ(全体像)
ステップ | 内 容 | ポイント |
---|---|---|
1. 要求仕様の確認 | 入力電圧範囲、出力電圧・電流、出力電力、絶縁の有無 | 回路方式の選定の基準となる |
2. 回路方式の選定 | フライバック、フォワード、バック、ブースト、LLC など | 電力・絶縁・効率で判断 |
3. スイッチング周波数の設定 | 通常は20kHz~500kHz程度 | 損失・ノイズ・サイズとトレードオフ |
4. 制御方式の選定 | 電圧モード、電流モード、ピーク電流制御、PFM など | 安定性・応答性・用途別に |
5. トランス or インダクタ設計 | 巻数比、磁束密度、ギャップ、コア選定 | フライバックやLLCで特に重要 |
6. 主回路部品の選定 | MOSFET、ダイオード、コンデンサ、整流素子 | 電圧・電流・温度マージン考慮 |
7. フィードバック回路設計 | 誤差アンプ、TL431、光アイソレータ | 絶縁型ではフォトカプラ必須 |
8. EMI/EMC設計 | 入出力フィルタ、スナバ回路、シールドなど | 安全規格準拠のために重要 |
9. 保護機能の実装 | OVP, OCP, SCP, OTP, UVLO | 特に量産品では必須機能 |
10.回路図作成(シミュレーション) | 2.5.7.8.9.項を基に回路図作成 | 仕様に基づいているか?保護機能に抜けが無いか? |
11.プリント基板(PCB)設計 | 部品レイアウト、配線パターン | パターン間の沿面距離、ノイズを考慮したパターン展開、パワーラインの流れと信号GNDの意識など |
12. 試作と評価 | 発熱、効率、スイッチング波形、突入電流、EMI評価など | 実波形確認が不可欠 |
13.設計の修正と最適化 | 評価結果から、回路/パターン修正、部品の見直し | 時定数やフィードバック系の位相補償定数、EMI/EMCでの追加部品など |
14.ドキュメント作成 | 仕様書、回路図、BOM、評価レポート | 仕様を満足しているかを評価レポートのDATAで満足している事を証明。 |
要求仕様の確認
スイッチング電源の設計を始める前に、顧客からの要求(要望、要件)を明確にし、それらが文書化された要求仕様書の内容が、関係者全員によって正しく理解されているか、顧客と合意されているかを確認するプロセスとなります。これは、設計の初期段階において非常に重要なステップであり、この確認を怠ると、後々になって手戻りが発生したり、顧客の期待と異なる製品ができてしまう可能性があるため注意が必要です。
例として、次のような内容を確認しておく必要があります。
①入力仕様の定義
・入力電圧範囲 (ACまたはDC、最小値、公称値、最大値)
・入力周波数範囲 (ACの場合)
・突入電流制限
・力率改善 (PFC) の必要性(高調波規制の要件)
➁出力仕様の定義
・出力電圧 (多出力の場合は、ch.毎の電圧)
・出力電流 (定格電流/最大電流/瞬時ピーク電流など、電流の変化とかの確認)
・出力電力 (総出力電力)
・出力電圧精度 (入力電圧に伴う出力の変化や出力電流の変化伴う出力の変化、環境温度による出力の変化等)
・リップルとノイズの許容範囲
・過渡応答特性 (出力電流(負荷)変動に対する応答速度と出力電圧の変動幅)
③性能要件の定義
・効率目標 (入出力条件ごとの効率)
・スイッチング周波数 ※要求は、あまりない。設計者任意で設定する事が多い。
・絶縁要件 (入力 – 出力間または、1次側 – 2次側間や、入力 – FG間/出力 – FG間など)
・保護機能 (過電流保護、過電圧保護、過熱保護、短絡保護、雷サージ保護など)
・起動特性 (起動時のオーバーシュート、起動時間)
・出力保持特性 (入力ダウンから、出力を保持させる時間)
・スタンバイ電力要件 (待機電力要求のある製品などで要求がある)
➃環境および安全要件の定義
・動作温度範囲
・保管温度範囲
・湿度条件 ※ただし、結露は除く事とする。
・EMC (電磁両立性) 規格
・安全規格 (UL, CE, PSEなど)
・サイズと重量の制約
・冷却方式 (自然空冷、強制空冷など)
要求仕様の確認の重要性
・ミスの防止:仕様が曖昧だと後工程で修正が必要になり、コストと時間が増大します。
・回路方式や部品選定の根拠になる
・試験・評価基準の明確化に役立つ(何をもって「設計完了」とするか)
回路方式の選定
仕様に基づいて、最適なスイッチング電源の回路方式を選定します。
代表的な回路方式には以下のようなものがあります。回路方式の選定は、出力電力、効率目標、絶縁要否、コスト、サイズなどの要素を総合的に考慮して行います。
・降圧回路(チョッパー方式/非絶縁): 入力電圧より低い出力電圧を得る
・昇圧回路(チョッパー方式/非絶縁): 入力電圧より高い出力電圧を得る
・極性反転回路(チョッパー方式/非絶縁): 入力電圧より高いまたは低い出力電圧を得る
・RCC/フライバックコンバータ (絶縁型): 小型で低出力電力に適し、絶縁機能を持つ
・フォワードコンバータ (絶縁型): 中程度の出力電力に適し、高効率
・ハーフブリッジコンバータ (絶縁型): 中〜高出力電力に適し、比較的低ノイズ
・フルブリッジコンバータ (絶縁型): 高出力電力に適し、高効率
・LLC共振コンバータ (絶縁型): 高効率で低EMI、主に固定出力電圧用途
・アクティブクランプフォワード/フライバック: 高効率化、高電圧アプリケーション
回路方式の選定の重要性
回路方式の選定は、スイッチング電源の設計において「心臓部」と言えるほど重要です。
最も初期かつ根幹をなす非常に重要なステップです。なぜなら、選択する回路方式によって、その後の電源の性能、効率、コスト、サイズ、信頼性、複雑さ、そして適用可能な用途が大きく左右されるからです。「性能」「コスト」「実現可能性」のバランスをとる作業は一度決めると設計全体がそれに縛られるため、最初に正しく選ぶことが非常に重要です。
以下に、簡単に回路方式の選定フローをまとめます。


用途別おすすめ回路方式一覧
用途 | 推奨回路方式 | 理由・特徴 |
---|---|---|
USB充電器(5V出力) | フライバック | 絶縁、小電力、低コスト |
ノートPC用ACアダプタ(>60W) | フォワード or LLC | 高効率、絶縁、放熱バランス |
LED照明(AC入力) | フライバック / バック | PFC付き or 単純構造 |
車載電装(12V→5V) | バックコンバータ | 非絶縁、降圧、小型 |
電動工具(昇圧型) | ブースト | 高出力電圧必要、バッテリ駆動 |
ソーラーパワーコンバータ | MPPT+ブースト / SEPIC | 昇降圧、広入力対応 |
サーバー/産業用電源(高電力) | LLC / ハーフブリッジ / フルブリッジ | 高効率、高絶縁、信頼性重視 |
電池充電器 | フォワード / バック | 出力制御が容易、効率とサイズのバランス |
回路方式選定の重要性
回路方式の選定は、「性能」「コスト」「実現可能性」のバランスをとる作業です。一度決定すると設計全体がそれに縛られるため、最初の段階で要件を十分に考慮し、最適な方式を選ぶことが重要となります。
カスタム電源の開発・設計のことなら、電源開発・設計ソリューションにお任せください!
今回はスイッチング電源の要求仕様の確認から回路方式選定についてご紹介しました。電源開発・設計ソリューションを運営するペックでは、小ロットからカスタム電源の開発・設計を承っております。さらには、開発・設計のみならず、製造・評価まで一貫対応しており、これまで幅広いお客様のご要望を実現してまいりました。カスタム電源開発・設計に関するご依頼がございましたら、お気軽にご相談ください。
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