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電源設計
提案事例

LLC制御ICのノイズ対策による負荷急変特性の改善

お客様の要望・課題

LLC制御ICのノイズ対策による負荷急変特性の改善 | 電源開発・設計ソリューション

電源ユニットにおいて、出力電流を0Aからピーク電流である11Aへ急激に変化させた際、出力電圧が規定値(24V±5%)を外れ、瞬時的に22.8V以下まで低下する事象についてご相談いただきました 。

詳細を確認したところ、この24V出力の電圧低下は、電源ユニットを構成するPFC回路の出力電圧降下と同時に発生していることが判明しました 。この電圧低下により、接続される機器が要求電圧を満たせず、誤動作やシステム停止に繋がる可能性がありました。

提案内容・効果

①:実機による現象確認

課題を解決するため、まず実機を用いて現象の確認を行いました。

状態確認

LLC回路の入力電圧が330Vの状態で11Aの負荷電流を流すと、24V出力が低下することを確認しました。

次に、LLC回路の入力電圧を390Vにして同様の確認をおこなったところ、24Vの出力低下が起こらないことが判明しました。 この結果から、負荷変動でPFC回路の出力を360V以下にならないようにする必要があると考えられました。

PFC回路をパスし、外部からLLC回路に電圧を供給

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 出力落ち込み(NG)             OK                OK

   ※上記波形の各 Ch.について 青色:24V電圧 / 赤色:24V電流 / 黄色:LLC発振波形

②:調査内容

実機での現象確認に基づき、LLC回路への入力を外部DC電源で供給した結果、急激な負荷変動でも出力の落ち込みが発生しないことを確認しました。

PFC回路の出力と同期してLLC回路の出力電圧が落ち込んでいることから、PFC回路の負荷応答性が悪いためにPFC回路の出力が変動し、その結果LLC回路の出力が落ち込んでいる可能性があると考え、PFC回路についても調査を実施しました。

PFC回路部の位相補償回路を極力高速になるよう調整し、電圧低下を抑えること、また、瞬時的に電圧低下が発生しても電圧復帰までの時間を短くすることができないか検討しました。 ※負荷電流の変化によるスイッチング動作のDuty変化なども調査。

結果として、ある程度は改善できたものの、LLC回路部の出力電圧の瞬時的な落ち込みが出力電圧精度を割り込む形となり、改善には至りませんでした。

PFC回路の出力リップルについては、従来の製品でもリップル電圧が大きい傾向がありましたが、これは測定環境の影響を受けているものと考えていました。 一方、LLC回路部の出力リップル電圧が大きいことは明らかであったため、こちらを調査することとしました。

LLC回路部の出力リップル電圧が増大する要因として、負荷電流が増えることで1次側スイッチング電流が増大し、そのノイズが制御ICの電流検出端子部分に影響を与えている可能性が考えられたため、電流検出端子部分のフィルタを強化することにしました。 対策として、フィルタ構成のコンデンサ容量を一気に大きくしました。

※ICのアプリケーションマニュアルでの確認は必要ですが、問題なさそうであれば、推奨コンデンサの値の10倍程度に大きく変えて現象の確認を行います。 定数を大きく変化させた場合の方が動作の変化が見えやすいため、まずどのような動作変化が起こるかを確認した後、問題に関係する部分の特性が大きく変化するのであれば、その調整を行います。

結果、ICの電流検出端子部分のフィルタ用コンデンサを 0.001uF → 0.1uF に変更したところ、電流変化によるLLC回路部の出力リップル電圧が減少しました。この結果を受け、急激な負荷変動時の確認を行ったところ、出力電圧のドロップも改善されていました。

このことから、急激な負荷変動時の出力電圧ドロップは、LLC回路部のスイッチング電流が急激に大きくなることでノイズが発生し、ICの電流検出端子にそのノイズが加わり、ICが影響を受けた結果、発生していたものと思われます。 フィルタが効くことでノイズの影響が無くなり、出力電圧ドロップも解消したと考えます。

【疑問点】

ここで一つ疑問点として、PFC回路の代わりに外部電源を供給して動作確認を行った結果、LLCの電圧ドロップが発生していなかった点があります。 負荷の急激な変動によるLLC回路部のスイッチングノイズが原因であれば、外部供給電源でも発生するのではないか、という疑問です。

あくまでも推測ですが、外部供給電源の能力が高く(電力容量的な余裕度)、きれいな電圧(ノイズも少ない)が印加されていることと、実機PFC回路部の能力(余裕度が少なく)出力電圧に数Vのリップルが加わることの違いから、引き起こされていたのではないかと考えます。

※但し、PFC回路部のリップル電圧については、アプリケーションマニュアルに出力電圧の3%程度との記述があることから、12V程度のリップルは正常動作範囲内になります。

③:対策について

調査の結果、LLC制御用ICの電流検出端子部分のフィルタ強化により効果があることが確認されたため、フィルタ部のコンデンサを以下の通り変更いたしました。

  • 0.001uF → 0.01uF に変更

④:対策検証結果

ICの電流検出端子部分のフィルタ用コンデンサを 0.01uF に変更した時の、負荷急変時の測定波形は次のとおりです。

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・Ch.1(黄色)24V出力:5V/DIV

・Ch.2(水色)PFC出力:100V/DIV

・CH.4(緑色)24V出力負荷電流:5A/DIV

・時間軸:100ms/DIV

24V出力は、負荷が流れた時、負荷変動特性と同レベルの出力電圧変化しか現れない結果となりました。 ※大きな落ち込みは確認されません。 ※PFC側の定数は、元(変更前)に戻しています。

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(以下、参考DATA) 参考として、ICの電流検出端子部分のフィルタ用コンデンサを 0.1uF に変更した時の波形です。各設定は上記の波形と同じです。

※但し、この時はPFCの位相補償等が検討途中であったため、PFC回路部の出力電圧の落ち込みも従来より小さいレベルとなっています。

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時間軸を20ms/DIVにて測定した結果です。 LLC 24Vの電圧の落ち込み等は確認されませんでした。

ICの電流検出端子部分のフィルタ用コンデンサを変更することによる影響については、LLCの過電流保護の動作ポイントが、変更により従来品と比較した場合、動作ポイントが若干後ろになります。

※例えば、従来品が13Aで過電流保護が働きだしていたものが、13.5Aから働きだすなど、少しポイントが後ろになります。 但し、上記は一例であり、実際は測定を行って確認する必要があります。 また、あまりにも後ろに移行して問題がある場合は、過電流設定抵抗にてポイントを前に戻すことになります。

⑤:考察

今回の問題に関しては、調査段階でPFC回路とLLC回路が同期しているような波形が観測されたことと、PFC回路部の動作を停止させ外部電源よりLLC回路部のみを動作させると、負荷の急激な変化によっても24Vの出力電圧の変動がなくなったことから、PFC回路側の過渡応答特性が問題かと思えました。

しかし、PFC回路側の過渡応答特性を改善してもLLC回路側の出力変動がおさまらなかったことから、結果としてLLC回路側の過渡応答特性(ノイズ耐性)が問題であったと判断しました。

今回の事例は、PFC回路とLLC回路の2段構成になっています。 このような場合は、PFC回路/LLC回路の連動した動作の確認、及びそれぞれ個別の動作確認もすることが重要であると、今回の調査結果より分かります。

調査・対策で重要な部分は、先入観で決めつけないで、可能性があることを羅列した上で確認していくほかありません。 今回のように2回路構成の場合、その症状にもよりますが、各回路単体での要因と、2回路の連動動作による要因とを両方考える必要があります。

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