防水・防塵(IP規格)に対応した電源筐体設計
屋外設備や産業用ロボット、工作機械など過酷な環境下で使用される電子機器において、電源ユニットの信頼性を担保する「防水・防塵設計」は極めて重要です。IP規格への適合は、単に水の浸入を防ぐだけでなく、製品の寿命や安全性、ひいてはブランドの信頼性を左右する大きな要因となります。
本記事では、IP規格の全等級(クラス)の詳細な定義を解説した上で、実際の電源設計現場で頻繁に求められる等級と、その達成に必要な設計アプローチについてプロの視点で解説します。
IP規格の等級定義
IP規格(International Protection)は、IEC(国際電気標準会議)およびJIS(日本産業規格)で定められた保護等級です。「IP○○」と表記され、第一記号(左側)が「防塵」、第二記号(右側)が「防水」性能を表します。
第一記号:防塵性能
0級から6級までの7段階で分類されます。数字が大きいほど保護性能が高くなります。
- IP0X(無保護): 特別な保護がされていない。
- IP1X: 直径50mm以上の固形物が侵入しない(手の甲などが触れても危険な部分に届かない)。
- IP2X: 直径12.5mm以上の固形物が侵入しない(指先などが触れても危険な部分に届かない)。
- IP3X: 直径2.5mm以上の固形物が侵入しない(工具やワイヤーなど)。
- IP4X: 直径1.0mm以上の固形物が侵入しない(針金など)。
- IP5X(防塵形): 機器の正常な動作や安全性を損なうほどの量の粉塵が侵入しない。完全防止ではないが、実用上問題ないレベル。
- IP6X(耐塵形): 粉塵が内部に侵入しない。耐塵試験用粉塵が入らない最高レベルの密閉構造。
第二記号:防水性能(水の浸入に対する保護等級)
0級から8級までの9段階で分類されます。 ※近年は高温高圧洗浄に対応した「IPX9K」もありますが、一般的な電子機器規格としては0~8級が基本となります。
- IPX0(無保護): 特別な保護がされていない。
- IPX1(防滴Ⅰ形): 鉛直(真上)から落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない。
- IPX2(防滴Ⅱ形): 機器を15度傾けた状態で、鉛直から落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない。
- IPX3(防雨形): 鉛直から60度の範囲で落ちてくる水のスプレーによって有害な影響を受けない。
- IPX4(防沫形): あらゆる方向からの水の飛まつ(水しぶき)によって有害な影響を受けない。
- IPX5(防噴流形): あらゆる方向からのノズルによる噴流水(ジェット)によって有害な影響を受けない。
- IPX6(耐水形): あらゆる方向からの暴噴流(強いジェット水流)によっても水が浸入しない。
- IPX7(防浸形): 一時的に水中に沈めても(規定の圧力・時間)、内部に浸水しない。
- IPX8(水中形): 継続的に水没しても内部に浸水しない(製造者と使用者の協議により、IPX7より厳しい条件を設定)。
防水・防塵を考慮した電源の筐体設計で「実際に求められる」等級レベル
上記のように多くの等級が存在しますが、産業用や屋外用の電源筐体設計においては、要求されるレベルはある程度集約されます。
防塵は「IP5X」以上が求められる
電源設計において、防塵性能はIP5X(防塵形)またはIP6X(耐塵形)が要求されることがほとんどです。
IP4X以下が採用されにくい理由
直径1mm以下のワイヤーや、空気中を舞う微細な金属粉などが侵入可能なレベルでは、回路基板上でショートを引き起こすリスクが高すぎるためです。
防水は「IPX5~IPX6」が求められる
防水性能については、設置環境によって以下の2つのレベルが主な要求ラインとなります。
IPX5(防噴流形)
屋外の配電盤など、直接雨が当たる筐体で求められるケースが多いです。直接雨が当たる屋外設置の電源では、最低限の要求となります。
IPX6(耐水形)
台風クラスの激しい風雨にさらされる環境で求められます。屋外設置の電源であれば、この等級を選択することが一般的といえます。
なお、IPX7(水没)以上は、水中ポンプ用電源など特殊な用途に限られます。一般的な電源設計では、放熱のための通気口を設けるか、完全密閉にするかのトレードオフが発生するため、過剰なスペック(不要なIPX7/8)を避けてIPX5~6に着地させるのが設計の勘所と言えます。
防水・防塵を考慮した電源筐体の設計のポイント
要求されるIP等級(防塵5-6、防水5-6)を満たすために、以下の3つの手法を適切に組み合わせます。
① 筐体の封止性を高める(ねじ止め、パッキン等)
IPX5~6レベルを達成するための最も標準的な手法は、筐体の合わせ目にゴムパッキン(Oリングやガスケット)を使用し、ねじ止めで圧縮して密閉することです。
一般的なゴムパッキンは絶縁体であるため、筐体パーツ間の導通が取れなくなり、シールド性能が低下します。電源装置ではノイズ対策も必須であるため、「導電性パッキン」や、金属メッシュを含んだガスケットを選定し、防水性とシールド性を両立させることが重要です。
② 樹脂コーティングを行う(表面保護)
IPX4レベルや、筐体内での結露対策として有効なのが、基板表面への樹脂コーティングです。これにより、湿気や埃による絶縁劣化を防ぎます。ただし、 「水没」や「強い水流」を防ぐ物理的な強度はないため、あくまで補助的な対策、あるいはIP5X(防塵)との組み合わせで信頼性を上げるために用いられます。
③ 樹脂ポッティングを行う(埋め込み)
IP6X(完全防塵)やIPX6~7(高防水)といった最高レベルの耐環境性能が求められる場合、筐体内部に樹脂(ウレタン、エポキシ、シリコン等)を充填し、回路を埋め込む「ポッティング」が採用されます。
水や粉塵が入る隙間そのものを無くすため、最も確実な保護方法です。同時に、放熱性の向上(樹脂による熱伝導)や耐振性の向上も期待できます。ただし、デメリットとしては、重量が増加する点、修理(リペア)が不可能になる点、製品単価が高くなる点が挙げられます。
基本的には、樹脂ポッティングは最終手段であり、筐体設計そのもので要求レベルをクリアすることが望まれます。
まとめ
防水・防塵を考慮した電源の筐体設計においては、全等級の中でも「防塵はIP5X~6」「防水はIPX4~6」が主要な要求スペックとなります。
設計者は、対象製品が「軒下(IPX4)」「雨ざらし(IPX5)」「高圧洗浄(IPX6)」のどの環境に置かれるかを見極め、適切なシール材の選定や、コーティング・ポッティングの要否を判断する必要があります。特に、防水構造とEMC(ノイズ)対策の両立は、パッキン選定における腕の見せ所と言えるでしょう。
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